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彼女たちの売春(ワリキリ) 社会からの斥力、出会い系の引力


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AV女優、風俗嬢、個人売春。性行為によってお金を稼ぐ、彼女たちのサービスを利用する男性の数は多いが、その実態はほとんど調べられていない。評論家・荻上チキは、さまざまに存在する性産業のなかでも、出会い喫茶、出会い系サイト、テレクラといった出会い系メディアを使った個人売春、通称「ワリキリ」の現状を知るべく取材を重ねた。

そこから見えてきたのは、貧困、精神疾患、虐待、教育からの排除といった、「古典的な問題」の集積だった。社会によってつくり出されたさまざまな「斥力」を受け、出会い系の「引力」に惹かれていった彼女たちの現実はいかなるものか、インタビューを行った。(聞き手・構成/出口優夏)


■エンコーからワリキリへ

―― この本の主題である「ワリキリ」とはどういうものですか?

ワリキリ」とは、出会い系サイトや出会い喫茶(デカフェ)などを用いて行われる売春行為のことを指します。90年代には「援助交際(エンコー)」や「サポ(ート)」と呼ばれていましたが、現在は「ワリキリ」、またはそれに準ずる「ワリ」という呼び方が、個人売春を指す全国共通の言葉となっています。

90年代は「援助交際」という言葉が主流でした。その頃は、女子中高生が使用済みの下着を売る「ブルセラショップ」が流行っていたため、援助交際と聞いて、必ずしも「自分の体を売ること」をイメージするわけではありませんでした。しかし、現在の「ワリキリ」は「自分の身体を売る」ことが主流になっています。90年代の「援助交際」事情とは少し異なっています。

出会い系メディアを使った売春のなかには、数人のチームを組み、「打ち子」が男性とアポを取り、客がみつかったらそこにメンバーの女性を送り込む「援デリ」「裏デリ」もありますが、この本ではあくまで、個人でのワリキリにしぼって調査を行いました。援デリについては、鈴木大介氏の『援デリの彼女たち』など、優れたルポもありますので、合わせて読むと立体的に理解できると思います。


■効率よくお金をもらえる方法

―― 個人のワリキリは、風俗や愛人関係となにが異なるのですか?

売り手側と買い手側、そのどちらに着目するかで、答えは変わります。まず、売り手側、つまり女性側に立ってみましょう。

風俗の場合、女性が受け取るお金は、男性が支払ったサービス料の総額から、一定の割合を店に抜かれることになりますね。4、5割程度とられるのが一般的ですが、店によってはそこからさらに、遅刻したペナルティを取られたり、必要なコンドームやイソジンなどは自腹で用意しろと決められていたりする。

一方で、ワリキリの場合、女の子はサービス料を全額自分のものにできます。相場は地域によって異なりますが、どの地域でも、風俗で働くよりは単価が高い。

愛人関係でも全額もらえますが、愛人関係が特定少数を相手にするのに対し、ワリキリでは不特定多数を相手にします。ただしワリキリでも、気に入った者同士が月額契約などを行い、愛人のような形態に発展する場合もあります。数人のパトロンとやりとりしながら、出会い系メディアを使わなくてもすむようになるのですが、そうしたことが可能なのは一部です。

風俗と異なり、自分に合わないと思う男性客を断ることもでき、料金やプレイ内容も交渉できる。出勤時間を固定されることもない。4割ほどのワリキリ女性は、風俗で働いた経験をもっていますが、彼女たちはこうした理由をメリットとして口にします。

買い手側、つまり男性側に着目してみると、料金体系やサービス面での違いがあります。ファッションヘルスは30~40分のサービスで10,000~15,000円、ソープランドだと20,000~30,000円というのが東京の相場です。風俗の場合、お金を払えば、メニューに書かれている一通りの内容をサービスとして受けることができる。ファッションヘルスだと、少なくとも表向きは本番行為以外、ソープランドだと本番行為も含めて一通り。

しかし、ワリキリの場合は売り手側と買い手側の自由交渉です。あらかじめサービスや値段が決められているわけではないので、売り手側が自由にNG行為を設定できてしまう。ですから、サービスをしない女性が多く、キスやフェラチオ、ときには喘ぎ声をあげることすらも拒否する女性もいます。

ワリキリでは、サービス料以外の費用負担が大きいのも特徴的ですね。出会い喫茶の入会料や利用料に加え、外出料として一回につき3000~5000円。それらに加えて、女性と自由交渉で合意したサービス料を払うわけです。

つまり男性側にすれば、一般的な風俗よりも、出会い喫茶を用いたワリキリの方が断然高くつきます。出会い系サイトの場合だと、出会い喫茶に比べて多少は安くつきますが、サイトの登録料やメールのやりとりにかかる料金に加えて、ホテル代とワリキリ料を払わなければいけないので、どちらにしても風俗より高く。


■ただの性欲解消に留まらないワリキリの魅力

―― 風俗は至れり尽くせりのサービスをしてくれて、さらに金額も安くすむ。それにもかかわらず、どうしてワリキリに引かれる男性が多くいるのでしょう?
 
ワリキリ女性を買う男性100人に行った調査では、3割ほどの男性は、そもそも風俗に行ったことがないので、比較対象をもっていません。たまたま最初に試したのがワリキリで、その流れでつづけているという人、なんとなく風俗に怖いイメージを持っているという人たち。

一方で、6割以上の男性は風俗経験がありますが、「風俗にはないもの」を求めていますね。厳密に言えば、出会い喫茶もテレクラも風営法の対象なので「風俗」の一種ではありますが。

風俗に飽きた、マンネリになって別のものを味わいたいという男性。素人信仰を語る男性がまずは多かった。なかには、「不幸の見本市」を見たいという男性、あるいは喫茶で競り落とすゲームに病みつきになった男性などもいます。

ワリキリを行う女性には、お金に困っていて、暴力を受けていて、さらに精神疾患や心の闇を抱えているという人が多くいます。怖いもの見たさで、一種のホラーハウスとして楽しんでいる男性もいました。

―― 「ホラーハウス」の感覚は、女性にはなかなか理解しがたいものがあります。女性側が買い手に回るパターンとして出張ホストはありますが、それは疑似恋愛を楽しむという部分が強いですよね。わざわざ高いお金をだして、すさんだ空気のなかで男性を買おうとは思わない。

男性側にも、「擬似恋愛」を期待している人もいれば、それに応じる女性もいます。買い手側のスペックとしては、仕事があって、お金もそれなりに持っているという男性がほとんどです。ただ性欲を解消するだけではなくて、自由交渉で女性を競り落とすところから始まるというワリキリ特有の過程を楽しんでいる。もちろん、ワリキリならではのすさんだ空気が、逆に癖になる人もいます。ぼくも、あの独特の空間に通うのが苦ではなかったからこそ、取材をつづけられたというのは、正直あります。


ワリキリに対人コミュニケーションは必要ない?

―― 本で描かれている女性たちのエピソードを見ていると、精神疾患を抱えている人が非常に多い。でも、現代社会には、同じような困難を抱えていても、昼の世界で生きている人もいくらでもいますよね。彼女たちをワリキリに追いこんだボーダーはどこにあるのでしょう?

そこはスパッとは切れません。ひとつの理由だけではなく、さまざまな理由が複合的に絡んできます。無理に単純化して説明しようとすれば、個人の資質=自己責任、ですませるのが一番簡単でしょうけれどね。

まず本人は「お金欲しいからワリキリを始めた」と言っていても、その背景には「他の仕事が手に入らない」とか「短期間にどうしても稼がなきゃいけない」といった多種多様な理由がある。あるいは、ワリキリを知ったきっかけとしては、知人からの紹介が多い。つまり、困っているときに出会ったのがワリキリだったか、あるいは別の相談相手なのかでもまた、変わったでしょう。

ワリキリを行っている女性は、学歴が高くなく、かつ精神疾患を抱えている人が多い。履歴書の段階で、働ける場所は、サービス業のような対人コミュニケーションを必要とする職業にかぎられてくるが、精神疾患を持っているため、コミュニケーションに過度のストレスが生じることも多々ある。そのときに残された選択肢の有力なひとつがワリキリだったということですね。

他の風俗では、お茶を引いている時間は値段にならないので、どうしたら継続的に通ってもらえるかを考える必要がある。その結果、客とのメールのやりとりや、ブログの更新といった、無料労働も発生します。プレイのときも、「喋って、服を脱がせて、シャワーを浴びて」という一通りの方法を、客の好みに合わせてサービスしなければいけない。

しかし、ワリキリでは、「穴だけ貸すから好きにやって」というスタンスの人も多い。ギャラ以外の要因でも、ワリキリに引かれる女性がいるわけです。


■お金を貯める方法を知らない

―― お金に困っているからワリキリを始めたにもかかわらず、ホストやギャンブルに使ってしまう女性が多いようです。どうして彼女たちはお金を貯められないのでしょう?

まず、「将来の自分に、具体的に投資する」という考えが弱いケースが多いです。将来の話になると、「いつかは店を持ちたい」「ネイリスト」といった、「大きな夢」に飛ぶ一方で、具体的な準備はなにひとつできていないというような。

貯蓄などの文法を身につけてこられなかったことも大きいかもしれません。たとえば、親と「お年玉を貯金しよう」「通帳作ったから貯金しよう」という話をし、貯金の方法を学んでいくという経験がない。親からの教育投資もほとんど受けなかった。わずかなお金が当たり前だったのが、ワリキリをしだすと、月に数十万円を稼げるようになる。「稼いだお金は、その月のうちに使う」というのが当たり前になっているので、タクシー代に使ったり、洋服を少しいいものに変えたりするんだけど、どことなく全体はアンバランスで、「夜職だとわかってしまう格好」になっている。

また、ワリキリをしている女性には「居場所がない」と答える人が多くいます。そして、優しさや癒しを求めてホストに依存したり、楽しみを求めてギャンブルに使い込んでしまう。ストレス解消というのもあります。ホスト利用率や、ホストとつき合った経験率については、2013年の今年、改めて調査を行なっているので、調査の続報として発表できると思います。


■夜の世界の統計を取る重要性

―― このルポは荻上さんが自ら全国の出会い喫茶や出会い系サイトを利用して100人以上の女性に調査していますよね。お金も労力もかなりかかったと思いますが、どうしてワリキリのルポを行おうと思ったのですか?

「物書きが何を書くか」ということにはさまざまな動機が混在しますが、ものすごくシンプルに言えば「書きたいし、書けるから」です。ぼくは知っているけれど他の人が知らないことがあって、その事実を伝えられるように書くのが物書きの仕事ですね。

既存の売春ルポには統計をとったものがほとんどない。風俗ライターなどはそういう観点をそもそも持たないし、学者などの統計のプロは、ヤクザ、風俗といった世界の調査にあまり手を出しません。ぼくなら、ルポを書き、データも集められる。そして、その仕事に対し、思想的にも大きな意義を感じている。簡単にいえばそういうことになります。


■女性たちがワリキリに引かれていく力学

―― 副題の「社会からの斥力、出会い系の引力」という言葉にはどんな思いが込められているのでしょう?

既存のワリキリに関する議論は、「お金がたやすく手に入る」という売春のもつ引力に引き寄せられた女性たちに着目し、道徳や心の問題として批判するというものが多数を占めています。個人の選択の話ばかりして、社会環境との関係性について書く視点があまりないんですね。あるいは唐突に、「こんな時代のせいなのだ」とか、凡庸な文明論になったり。

でもデータを見るかぎり、本当ならば「彼女たちにとって何が社会からの斥力になっているのか」という議論が継続される必要があります。過去の日本政府は、売春の実態に関する丹念な調査をしていましたが、いまは継続されていないし、学者らもそれを補えていない。

彼女たちが他の仕事に就けない理由として、「精神疾患」「学歴」「容姿」の問題であるとか、「誰かに愛されたことがない」「裏切られつづけて人を信頼することができない」「お金の使い方を知らない」という多種多様な社会からの斥力の影響があります。そのような斥力が原因となって仕事に就けない彼女たちがワリキリに引かれていくという力学を描きたかったので、彼女たちが「何に惹かれ、何に追い出されたのか」ということを題名に切り取りました。


■彼女たちがワリキリをしなくてすむ社会づくり

―― 彼女たちを救うには、具体的にどういった方策が必要だとお考えですか?

まず前提として、本書で取り上げているワリキリ女性のなかには、いたって健康で、お金に困っていない女性もいます。なので、「ワリキリ女性=救うべき」という図式をすべてに当てはめたりはしません。

一方でこの本は、売春問題の改善について問うてはいますが、ある意味では変化球な答えしか与えていません。つまり、「あまり望まないワリキリ」をしている女性たちの話をしながら、いまワリキリをしている彼女たちへの対応を議論するよりも、そもそも彼女たちがここに辿り着かずにすむためにはどうしたらよかったのかという話になっているからです。

なぜ具体策を提示しなかったかというと、いまある対応レパートリーそのものが弱いため、「これなら薦められる」とも言いがたく、またぼくはNPO関係者でもソーシャルワーカーでもないため、自分自身でソリューションを出すこともできない。その代わり、この本やデータを残すことで、支援のバトンは渡す。「n個の斥力に対応したn個の包摂をどうつくっていくか」という議論のつづきを、読むものに委ねたいと思うのです。

ただ一方で、たんに専門家が努力すればいいという話ではなく、いかなるイメージが世論を形成するかは重要となる。本当ならば、既存の議論のように「心の問題として片づけ、彼女たちを批判する」ことは、すべての予防策を講じたあとで許されるものです。それにもかかわらず、論者たちがワリキリに対する現状把握をしないまま、中身のない議論が先行してしまっている。これではいつまで経っても効果的な議論はできません。

ぼくがこの本で言いたいのは、「売春対策をしろ」ということではなくて、「斥力となる一つひとつの要素を発見し、潰していくことで、さまざまな望まない選択を減らせる環境づくりをしよう」です。そのためにも、まずは事実を積み重ねること。そうした作業を、ぼくは今回、個人売春というテーマで行いました。あてずっぽうな議論を回避し、少しでも的を射た議論が増えるよう、貢献できればと思ったのです。




(2012年12月27日 新宿にて)






彼女たちの売春(ワリキリ) 社会からの斥力、出会い系の引力




荻上チキ(おぎうえ・ちき)



1981年生まれ。評論家・編集者。「シノドス・ジャーナル」、メールマガジン「αシノドス」編集長。著書に『ネットいじめ』(PHP新書)、『社会的な身体』(講談社現代新書)、『いじめの直し方』(共著、朝日新聞出版)、『ダメ情報の見分け方』(共著、生活人新書)、『セックスメディア30年史』(ちくま新書)、『検証 東日本大震災の流言・デマ』(光文社新書)、編著に『日本を変える「知」』『経済成長って何で必要なんだろう?』『日本思想という病』(以上、光文社SYNODOS READINGS)、『日本経済復活 一番かんたんな方法』(光文社新書)など。









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